藤圭子の精神の病とはなにか

藤圭子が自殺した時、宇多田照實氏と宇多田ヒカルはコメントを発表し、藤圭子が以前から精神的に不安定だったと述べました。宇多田ヒカルは発表したコメントの中で次にように書いています。

幼い頃から、母の病気が進行していくのを見ていました。症状の悪化とともに、家族も含め人間に対する不信感は増す一方で、現実と妄想の区別が曖昧になり、彼女は自身の感情や行動のコントロールを失っていきました。私はただ翻弄されるばかりで、何も出来ませんでした。

このコメントとともに照實氏もコメントで次のように述べています。

この感情の変化がより著しくなり始めたのは宇多田光が5歳くらいのことです。自分の母親、故竹山澄子氏、に対しても、攻撃的な発言や行動が見られるようになり、光と僕もいつの間にか彼女にとって攻撃の対象となっていきました。しかし、感情の変化が頻繁なので、数分後にはいつも、「ゴメン、また迷惑かけちゃったね。」と自分から反省する日々が長い間続きました。

2つのコメントをもとにすると、藤圭子の精神の病が発症したのはヒカルが5歳の頃、つまり1988年ということになります。そしてヒカルのコメントにある ”現実と妄想の区別が曖昧になり” という言葉を根拠に、藤圭子は統合失調症だったという言説がネット上にまことしやかにあふれることになりました。ですが妄想が伴う精神疾患は何も統合失調症だけではありません。うつ病でさえ妄想が伴う場合があります。

もし統合失調症なら発病してから治療を受けことなく、約10年に渡って歌手活動を支障なく続けることなどできません。必ず奇行など、問題行動が第三者に知られることになります。しかし藤圭子の場合は、仕事の上では精神疾患の症状が現れて、それが第三者に知られるといったことはありませんでした。

精神疾患の診断基準にDSM-5がありますが、それをもとにすると、藤圭子の症状が最も当てはまる精神疾患は 境界性パーソナリティ障害 といえます。それも自傷行為や自殺企図が目立たない高機能型の境界性パーソナリティ障害です。精神科医によっては退行型と呼んでいる人もいます。

米国の研究では全人口の0.7~2%が診断基準に当てはまるとされています。

境界性パーソナリティ障害を扱ったいくつかの書籍では、英国のダイアナ妃が境界性パーソナリティ障害を患った有名人の例として取り上げられています。ダイアナ妃はチャールズ皇太子と結婚しましたが、まもなく結婚生活は破綻し、感情的で自己破壊的なダイアナ妃が周りの人たちからも気づかれるようになりました。チャリティ活動に一所懸命になりましたが、他人を助ける側に立ちたかったためでしょう。境界性パーソナリティ障害はダイアナ妃を苦しめ、それは1997年の彼女の死によって終わりを迎えました。

その他に境界性パーソナリティ障害を患った有名人としてはヘルマン・ヘッセ、マリリン・モンロー、太宰治、中森明菜などが挙げられます。

私が境界性パーソナリティ障害だと考える根拠は、藤圭子が自らを語っていたこと、母親の竹山澄子さんが語っていたこと、藤圭子の生前にヒカルが語っていたこと、藤圭子と特に親密な関係にあった人たちが語っていたことをもとにしています。

藤圭子の精神の病に関して、ネット上でどのように認識されているかを調べるために、Googleで検索をしてみました。検索語句は藤圭子と合わせて統合失調症、統合失調感情障害、双極性障害、うつ病、境界性パーソナリティ障害の5つです。それぞれのヒット件数を次に示します。なおこの検索では、検索語句をそれぞれ二重引用符で囲っています。

 統合失調症 13,900件
 統合失調感情障害 86件
 双極性障害 82件
 うつ病 11,100件
 境界性パーソナリティ障害 50件

Google検索は検索する日時によってヒット件数がかなり変動する場合があるため、この結果はおおよその傾向を表したものと考えてください。

やはり統合失調症が最も多くなっています。一般の人は ”妄想” と聞くと統合失調症しか連想できないのでしょう。次に多いのがうつ病ですが、照實氏のコメントにあるような攻撃性はうつ病にはみられません。和田秀樹は統合失調感情障害とした理由を、藤圭子が世界中のカジノで5年で5億使ったというギャンブル癖を理由にしているようですが、躁状態が5年も続くことはありえません。これは双極性障害にも当てはまります。

親が子を憎むより、子が親を憎むのは100倍強いともいいます。親からいいようにされていた期間がそれだけ長いからでしょう。境界性パーソナリティ障害は深刻な挫折体験やひどく傷つく体験をきっかけとして発症することが多いとされています。

マスメディアから『一卵性母娘』といわれるほどの母親思いだった藤圭子が1988年から母親を強く憎むようになったのには藤圭子が患った境界性パーソナリティ障害が大きく関係していると思います。

 藤圭子が患った精神の病だと考えられる境界性パーソナリティ障害の特徴を挙げてみます。その症状は家族など特に親密な関係にある人に対して生じます。ですので高機能型の境界性パーソナリティ障害では、仕事をほとんど支障なく行うことが可能です。しかもこれらの症状は親密な関係においていつも生じているわけではなく、あるときにだけ生じるものです。

1.若い女性に多い
3対1の割合で女性に多く見られます。10代後半から20代の若い女性に多く発症します。一目見て心を惹きつけられる魅力とオーラを持っていたり、放っておけないような保護してあげたいと感じさせたりする女性が多いといいます。

2.感情が不安定
気分の落ち込みやイライラ、怒りの爆発など、感情が著しく不安定です。感情の変化の持続時間が数時間から2〜3日までと極めて短いのが特徴です。感情が変化するきっかけとして親密な対人関係があり、見捨てられ不安が関連しています。

3.信頼と罵倒の急激な変化
全面的に信頼していた人なのに、ちょっとしたことをきっかけとして最低の人間だとして罵倒します。その落差には著しいものがあります。

4.見捨てられ不安としがみつき
見捨てられることを極度に恐れます。なんでもない些細なことでも見捨てられたと思い込み、自分が全否定された、もう生きていけないと絶望的な不安にとらわれます。見捨てられまいとして死にもの狂いの努力をします。何が何でもその人にしがみつこうとしたり、過呼吸やパニック発作を起こしたりします。

5.自己破壊的行動
ギャンブル依存、アルコール依存、薬物依存、セックス依存、浪費、無謀運転など、いずれもこのような行為を続ければ心身がボロボロになるような、依存症と言える自己破壊的行動を伴うことがあります。

6.キレる
些細なことで怒りが爆発します。感情のコントロールができません。キレるという言葉が当てはまりますが、その頻度と激しさは尋常ではありません。その怒りはおもに家族など身近な人に向けられます。キレた後で反省して謝ることがよくあります。

7.慢性的な空虚感
いつも心がうつろに感じています。物事がうまくいかなくなるとそれまでの努力がどうでもよくなったり、生きること自体が無意味に思えてしまったりします。この疾患の人が感じる空虚感は独特なもので、他者からは理解しづらいですが、当人はこのことで深く悩んでおり、自覚的にはこの空虚感が一番つらく感じています。つらい空虚感を埋め合わせるために危険な自己破壊的行動を引き起こしている可能性があります。慢性的な空虚感は深い自己否定感とも結びついています。

8.アイデンティティ障害
自分がどんな人間なのかが分からない、他人の影響を受けやすいといったように自己同一性が安定していません。自他の境界があいまいで自分の気持ちと他人の気持ちを混同しやすいです。自分が相手を嫌っていると、相手が自分を嫌っていると感じたりします。

9.自傷行為や自殺の試み
シャープペンシルや針、カミソリなど様々なもので自分を傷つけることがあります。向精神薬の大量服薬などで自殺しようとすることがありますが、これによって周囲が振り回されることになります。最近の調査では自殺未遂者の約6割がこの疾患の人です。約10%の人が実際に自殺を完遂します。

10.一過性の精神病
妄想などの精神病症状が出現する場合があります。親密な関係にある人に対して被害妄想を抱く場合、その多くは勘ぐりに近いもので、人とのつながりを強く求めることの裏返しと解釈できることが多いものです。多くの場合一過性であり、何日も持続することはありません。

境界性パーソナリティ障害の特徴を挙げました。藤圭子にも強いストレスがかかった状況ではこれらのうちのいくつかが、特に親密な関係にある家族などとの間で出現したと考えられます。高機能型の境界性パーソナリティ障害では、家族など親密な関係にある人との間でしか症状が起きませんから、家族が他人にそのことを話しても理解されず、孤立してしまうといったことが往々にして起こります。

境界性パーソナリティ障害は、大きな挫折や深刻な傷つく体験をきっかけとして発症する場合が多いものです。発症したとしても、安定した環境に置かれると症状が収まる場合もあります。

境界性パーソナリティ障害では、ストレスが少ないときには症状が目立ちません。藤圭子も音楽ユニットU3を結成して米国と日本を往復していた時期は、ほとんど症状が生じなかったと考えられます。

また境界性パーソナリティ障害の人は他の精神疾患を併発することがほとんどです。海外の研究では、60%の人はうつ病の診断基準に合致します。55%は社交不安症、30%はパニック症、30%は外傷後ストレス障害(PTSD)のいずれか、または複数の診断基準に合致します。

境界性パーソナリティ障害の人の多くは、親に対する強い確執を持っているとされています。何らかの事情で、適切な愛情や養育、保護などが与えられないと、子供は親から卒業することができなくなります。愛情が必要な時期に十分満たされないとその段階が続いてしまいます。

藤圭子の場合も親、特に母親を卒業できていなかったのだと思います。

藤圭子が境界性パーソナリティ障害を患っていたという主張の根拠については こちらの記事 で取り上げています。

境界性パーソナリティ障害を藤圭子が患うことになった理由については こちらの記事 で言及しています。