藤圭子の暗黒エネルギー

このブログの最終的な目的は、藤圭子がなぜあのような悲劇的な最後を遂げなければならなかったのか。その理由を解明することです。

「霊的直感」から歌を聴かずに藤圭子の歌手としての才能を見抜いた渡邉正次郎

藤圭子と渡邉正次郎との関わりを理解する上で、渡邉正次郎とはどういう人物であるかを理解しておく必要があります。

渡邉正次郎の著書で半生記である「芸能人、ヤクザ、政治家は弱い者イジメが大好き」によれば、渡邉正次郎は現オリジナルコンフィデンスの前身である「芸能市場調査」の編集長時代にカルメン・マキ、内山田ひろしとクールファイブ、森進一、キングトーンズ、佐良直美ピンキーとキラーズいしだあゆみなど、多数の歌手のデビュー曲を発売3ヶ月前にヒット予言。すべて的中させたといいます。

当時、渡邉正次郎は売り上げデータを基にした各曲のランキングと、発売前の曲のヒット予想を芸能市場調査の紙面に載せていました。そのヒット予想がことごとく的中し、音楽業界の中で渡邉正次郎の名が広く知れ渡るようになリます。

渡邉正次郎は自らのヒット予想を「霊的直感」と述べています。霊的と聞くと如何にも眉唾物に思えてしまいますが、渡邉正次郎の実績の前では、とにかく「人並みはずれて優れた直感力」の持ち主なのだろうと納得をせざるを得ません。

渡邉正次郎は初めて藤圭子に会ったときのことを次のように述べています。
 

テーブルを挟んで薄暗いキャンドルの向こうに、今でいう「負け組」を背負ったような顔をした4〜50歳の男と、14、5歳に見える青白いおかっぱ髪の少女が居る。

支配人からいい子と聞いていたから正面から見た。美少女の部類に入る。その少女の傍らに白いギターが一本あった。

「正次郎先生、この子です」

白神支配人の紹介で、目の前の少女が立ち上がり、「初めまして、阿部純子と申します」と少女が声を発した。ハスキーな声だった。

改めて顔を見た。途端、「この女はスター! 間違いない。林君、君のとこに預ける」と、筆者は大声を上げていた。いつの間にか上げていた人差し指は、少女を突き刺すようにしていた。

狭い通路を挟んだボックス席で嬌声を上げていたホステスと工員たちが、筆者の大声のド迫力に驚いたのか、シーンとなって見つめていた。

「あの……。まだ、歌を唄っていないんですけど……」。

茫然とした少女が言葉を出すまで、少し間があった。

そうだろう。どんな偉い人物が来るのか、歌を聴いて「歌手は無理だ」と言われるのではないか。期待と不安が交錯していただろう。これから何曲か唄って何を言われるか、の不安な気持ちのほうが強かったろう。

それが歌も聴かず挨拶しただけなのに、いきなり「大スターだ! 間違いない!」と断言され、その場で事務所まで決められてしまったのだから驚いて当然。

「いや、唄わなくていい。お前は間違いなく大スターになる。林くん、レコード会社も私が決める」。

事実、彼女には1曲も唄わせなかった。聴く必要もなかった。間違いなく大スターになる、その直感が大きな声を出させたのだ。すでに、あるレコード会社の制作部長の顔が浮かんでいた。

渡邉正次郎によれば、歌を聴かずに顔を見ただけで「スターになる」と「予言」したのは、藤圭子ただ一人だけだったそうです。

藤圭子の事務所となった鳳企画の伊藤勇社長という人は資産家の息子で、自分が所有するテナントビルの地下1階で有名ジャズ喫茶「ドラム」を経営していました。

伊藤社長から渡邉正次郎は、藤圭子の給料を40万円にすると告げられます。兄を含めた家族4人の生活費と、声が荒れるので "流し" をやめさせるのだからというのが高給の理由だと言います。

キングレコードでの藤圭子のオーディションに立ち会った渡邉正次郎が、キングレコードに「デビューから5年間はポップスかロックで売り、6年目から演歌に切り替えよう」と指示します。

それから数ヶ月後、デビューの準備に取り掛かろうとしていた時、鳳企画の伊藤社長から事務所を止めたいと言われます。

伊藤社長によれば、藤圭子が「原盤制作にしたい。原盤制作の方が儲かるし、給料でなくすべて歩合にしたい」としつこく要求してきたといいます。原盤制作には多額の費用がかかるため、伊藤社長は嫌気がさして事務所を閉めたいと言うのです。

「原盤制作」とは、完全な楽曲が録音された原盤を、通常はレコード会社が制作しますが、事務所側が原盤までを自ら制作し、レコード会社が事務所からライセンスを受けてレコードを生産・販売することです。この場合の原盤は外部原盤と呼ばれます。

原盤制作を事務所側が行うことで、原盤製作者としての権利を事務所側がすべて所有することになり、レコード販売価格の約10%を占める「原盤印税」を事務所側がすべて受け取ることができます。

ただし、原盤制作には歌手の他に楽器演奏者や編集を行うミキシングやマスタリングエンジニア、スタジオ使用料など、多額の資金が必要となります。

当時、原盤制作という言葉は音楽業界にいた渡邉正次郎も最近知ったばかりであり、儲かるかどうかもよくわからなかったといいます。ましてや藤圭子が個人的に知っているはずがありません。

(続く)