藤圭子の暗黒エネルギー

このブログの最終的な目標は、藤圭子がなぜあのような悲劇的な最後を遂げなければならなかったのか。その理由を解明することです。

藤圭子は「こぶし」を使えるか

藤圭子は、デビュー前に当時存在したレコード会社6社全てのオーディションに落ちています。その時の評価でマイナスとなった点は、歌い方が荒っぽいとか、雑だとか、繊細さに欠けるといったものでした。この時指摘された点は、デビュー後でも変わっていません。それは止むを得ないことです。子供の頃から生活のためにお祭りの余興とか寄り合いの出し物とかでアカペラで歌っており、大きな声で歌い聴く人を惹きつけるような歌い方をする必要があったのですから、そうした歌い方が身に付いてしまったのでしょう。

マイナスとされた点に「こぶしがあまり回らない」といったこともありました。当時のいわゆる「演歌」を歌う歌手にとって、「こぶし」が使えることがメリットであったことがわかります。1964年には都はるみがデビューして大人気を博しており、独特な「うなり」とともにこぶしも使いこなしていました。

藤圭子はデビュー後にはこぶしをうまく使えるようになったのでしょうか。それを検証してみたいと思います。

その前にまず「こぶし」とは何かを明確にしておく必要があります。こぶしの定義をネットで探しても要領を得ないものばかりです。この歌のこの部分でこぶしを使っている、といった実際上こぶしの理解に役立つ説明はネットのどこを探しても皆無といえる状況です。

しょうがないので勝手に次のように定義することにします。

こぶしとは
「楽譜上は1音の発声で瞬間的に音程を1回から数回変化させること。楽譜上には表記できない装飾的な歌唱法」
という。

これでは抽象的で分かりにくいので、分かりやすい実例を提示した方がよいでしょう。それには都はるみの「夫婦坂」の歌唱が、こぶしとは何かを理解する上で最適だと思われます。それに藤圭子はこの夫婦坂をカバーしていますので、藤圭子がこぶしを使えるかどうかを検証するにはうってつけです。


夫婦坂 都はるみ 26 UPL-0025

この動画で都はるみはこぶしを多用しています。ではどの部分がこぶしでしょうか。1番の歌唱を文字に起こしてみます。

このーさーかーああをー こえ たなーらー しあーわーせーええがーあぁ まって いいーるー
ぅぅんなぁー ことばーををー しぅぅんじてー こえたーななさかー よそじーざーかー
いーいぃいーいいのー いいのおーよー あなたあとー ふたーああーりー
ふゆっのー こがらっしー えっがーおぉでー たえぇーりゃー
はーるーうぅのおー ひもーさぁすー めおーおぉとーざあぁあぁかー

上のフレーズのうち、赤字の部分が「こぶし」の部分です。それ以外でこぶしのように感じられる部分はいわゆる「こぶしモドキ」であって、本物のこぶしではありません。

都はるみが いーいぃいーいいのー と歌っている箇所の楽譜は次のようになっています。

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こぶしモドキとは、こぶしのように聞こえるものの、楽譜上に音符として表記されているか、表記されていなくても音符として表記可能な歌唱をいいます。

今では演歌歌手の多くがこぶしが使えるような認識があるようですが、本物のこぶしが使える歌手はそのうちの一握りに過ぎません。

藤圭子の歌唱はどうでしょうか。


夫婦坂★藤 圭子

都はるみの歌唱とずいぶん印象が違います。実にあっさりしています。こぶしが使われていないのでそっけない感じがします。こぶしモドキでさえも使われていません。こぶしというのは言ってみれば調味料みたいなものなので、なければないで食べられないことはありませんが、使うのがふさわしいのであれば使った方が当然おいしくなります。

都はるみの夫婦坂を聴いたことがないのであれば、藤圭子の歌唱でも上手いなぁと思ったかもしれませんが、都はるみのこぶしを知っていると、藤圭子のこぶしをまったく使わない歌唱では物足りないです。夫婦坂は「ド演歌」ですから、こぶしを使った歌唱が合うのです。藤圭子の持ち歌に「聞いてください私の人生」というド演歌がありますが、ここでも藤圭子はこぶしはおろか、こぶしモドキでさえまったく使っていません。藤圭子がこぶしを使えないことは明らかです。当時の藤圭子が夫婦坂をカバーした気持ちは良く分かりますが。

藤圭子にはカバー曲でド演歌の「涙の酒」がありますが、そこではこぶしモドキは使っています。

本物のこぶしを使える歌手は少ないと書きましたが、ほかにも夫婦坂をカバーしている歌手がいますが、それらの中でこぶしを使っている歌手がいるでしょうか。

カバーしている歌手のうち、ネット上で動画が見つかるのは、村上幸子森昌子中村美律子大石まどか石川さゆり香西かおり、渥美二郎、石原詢子長山洋子の9人でした。その中で本物のこぶしを使って歌っているのは香西かおりだけでした(注:香西かおりの動画は本記事執筆後に削除されました)。

香西かおりは、サビの箇所である いーいーのー  いーのーよー のところで果敢にもこぶしを使っています。こぶしの回し方は都はるみとは当然異なり、難易度も高くはありませんが、それでもこぶしを使うには難しいこの部分で、こぶしに挑戦する心意気はあっぱれというしかありません。

都はるみは、こぶしが使えるかどうかは生来的なものであって、練習して使えるようになるものではない、と言ったことがあります。

あの天才歌手・美空ひばりでさえ、こぶしは使えなかったのですから、藤圭子がこぶしを使えなかったとしても不利になることはありませんでした。